よき為政者であることの第一の要件は、いかなる場合も、死刑を執行しないことである。たとえ法律において死刑が規定されており、現に死刑確定者がいたとしても、絶対に死刑を執行しないという信念が、その心底になければならない。そもそも犯罪者は社会的憎悪の対象となりやすく、殊に死刑確定者ともなれば、世の悪感情をいや増しに受けることになる。そうした趨勢に乗じ、犯罪者を安易に抹殺することは、その者を純粋に学問的研究の対象とする可能性を閉ざすことにつながる。犯罪もまた人間的事象であるかぎり、それをそれとして保全するよう努めなければならないのであって、そのために第一に求められるのは、犯罪者自身の安全である。またそれと同時に、よき為政者が留意しなければならないのは、犯罪の責任を自ら引き受ける覚悟をもつことである。ふつう人は、犯罪と言えば、まずもってこれを嫌悪し、非難するのであるが、民主国家の為政者たる者、むしろ被害者以上に加害者の心に深く思いをいたし、自らの施策の不全としてこれを深刻に受け止めるべきである。こうした心構えをもたない為政者は、もとより統治能力を欠いているのであって、速やかに排されなければならない。